〜はじめに〜

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 通称パゴダ、またはパゴダルーフと呼ばれるメルセデスベンツ 230SL(コードネームW113)は、世界中のセレブ、芸能人に今でも愛用されるクルマ好きなら一度は所有してみたいクルマの代表格である。メルセデスベンツ史上、最も美しいクルマとも評され、バブル期には1000万円程度で取引されるほど人気が高い。素晴らしく整備され、内装外装もレストアされた車両であれば、現在でも700万円〜1000万円のプライスが日本国内ではつく事もある。中古車屋の店頭で流通している車両は大体20台前後だから、非常に少ないと言える。また、その特殊性のために東京、大阪、名古屋にこのクルマは集中し、専門的な整備能力を持つ専門店で取り扱われるのが普通である。

 私は190E(コードネームW201)を10年以上にわたり所有してみて、メルセデスベンツというクルマの特殊性に魅了された。はじめは、書物などで得られるメルセデスベンツの哲学やクルマとしての性能で興味をもつ普通のクルマ好きであったが、この190Eをほとんど自分で整備し管理してみて分かった魅力は読んだり聞いたりした事以上のものだった。

 メルセデスベンツの製品、特にW113には190Eを所有してみてから段々と興味を抱くようになったが、その車両価格の高さと部品代の高さや整備の難解さ等々で、手に入れるのはまあ一生無理だろうなと思っていた。しかし、個人売買(委託販売)で私が知る限りではまたとない掘り出し物に出会うチャンスがあり、清水台から飛び降りるつもりで購入するに至った。

 委託販売というのは、個人から車を売ることを依頼された業者が仲介して、広告などを行い、個人の買い手を見つけるという販売手法である。業者は、あくまで も売買の仲介者ということで、販売車両の品質や保証については一切責任を負わない。そのかわり、手に入る報酬は売り手と買い手からの手数料であり、中古車 売買のような大きな販売利益を乗せることは難しい。それでも、仲介業者にとっては、在庫車両を買い取ってくる資金が要らないこと、店舗に在庫を置くスペースが要らない、車両への責任を持たない、売れなくても無駄になるのは広告宣伝費だけである。ということで、メリットは大きく、この販売手法が激増中のマーケットである。買い手のメリットとしては、保障がない分安く買える、ということだけである。レアな車の場合は、下手に業者の販売車両で探すよりも、程度のよい車を手に入 れられるチャンスも大きい。レアな車でも、プロの下取り価格というのは恐ろしく低いから、個人もなかなか業者に売るのをためらってしまう動機があると思 う。だから、程度に自信があればある程、プロに買いたたかれるよりも、同好会での個人売買で適正な価格で売りたいと思うのが人情だろう

 売り手のメリットとしては、完全な個人売買では、広告をオープンにするわけではないので、買い手が見つかるチャンスが少ない。そこで、委託販売業者に頼め ば、10%程度の仲介手数料は取られるけれど、広告も無料で行ったもらえるし、もし売れなくても特に費用の請求はないので敷居は低い。デメリットは、いうまでもなく、買い手にのみ集中し、車両の見かけとちょっとした試乗で問題点を察知できなければ、ゴミのような車両でも、ちょっと割安な だけで、何の保証もないクルマを買ってしまうことがある。重大な故障を抱えた車両で、通常の保障ありの中古車マーケットではとても流通できないようなモノ をつかまされる可能性があるということだ。私は、普通の零細な中古車屋で車を買うことさえも、嫌な人間である。中古車業界というのは海千山千の世界であり、なんでもありだから、可能な限り巨大資本 のあるディ−ラー系の中古車しか、安心できないと思っている。ディーラー系の大型中古車店も、100%の品質などはないのであるが、もし車両に致命的な欠 陥、たとえば購入後1カ月でミッションが壊れた場合などは、もし保障なしだったとしても、なんとかやすくで直してもらう良心と資本力に期待できるのではと 思っている。それは、組織の場合は、ある程度常識的に対応するシステムが機能するからと期待するもので、個人商店の場合は親方の気分次第でどうにもならな いこともあると感じるからである。

 
だから、委託販売という売り手と仲介業者にだけ都合の良い売買形態は全く好きではない。こんなやり方がまかり通れば、泣かされる消費者が激増するのではと危惧している。しかし、それでも今回はいわゆるプロの販売業者でも保証付きの車両を見つけることが出来ないほどレアな車であり、もし保証付きのコンディションの車両だと 700万円オーバーだからとても手が出るわけがない。保証付きだとしてもせいぜい3か月から半年だから、保障料としては大きすぎる。今回は、そういう車両 が300万円台で委託販売ということだったから、清水台から飛び降りる気持ちで、一度も現車確認をしないままで、挑戦してみることにしたのだ。(仕事のス トレスもたまっていたせいかもしれぬ) もし、すぐに壊れたら、それでも模型として持っておいてもよいと思うほどこの車は好きなのである。

参考文献

MERCEDES BENZ 230, 250 & 280. HAYNES.