すれ違い事故の危険なワナ

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車を運転していると、あまり普段は気がつかない理不尽なこの世界を垣間見る機会が突然に訪れる。センターラインの無い狭い道路で自動車同士がすれ違う場合、まとも人間なら徐行に近い速度で自分の車が壁にこすらないか、相手の車との間隔はどれくらいかを恐る恐る観察しながらすれ違うものだ。しかし、時には対向車が全く速度を落とさずに向かってくる事があることはドライバーなら一度や二度は経験した事があるだろう。この場合は壁に車を寄せて停車し、相手が通り去るのをじっと待つのが最も適切な対応と考えるのが普通だ。もし万が一、相手がこちらの車に接触したのなら、10対ゼロで自分には非が無い、修理代は全部相手もちだと思っているからだ。それが法律であり、この社会のまっとうな判断だと思っているからだ。
しかし現実にはそう単純ではないのである。私が経験したこの話を読めばきっと誰もが安心して運転する事など出来ない事を思い知る事になる。
見通しの良いセンターラインの無い狭い道路で、久しぶりにばかげたスピードで対抗してくる車両がいた。相手は軽自動車の若い女性。このままお互いにすれ違うのは余りに危険だと感じ、壁に車を寄せて停車し、相手が通り去るのを待った。軽自動車の中でも旧規格タイプで小さいタイプの相手の車両だから、その女性運転手は減速などしなくてもすれ違えると確信していたようだ。しかも、こちらはかなり手前で壁に車を寄せて停車しているから、早く通り過ぎるのがマナーという動機もあったのかもしれない。とにかく全く減速せず、しかも中央よりにすれちがった。バキッという激しい音で相手のミラーが吹っ飛んでいる事に気付いた。私の車のミラーは傷がついていた。相手の車は気づいていなかったのか10数メートル先で他の車も詰まっていたところで停車していたので、逃がすまいと車を降りて接触した事を知らせに行った。

相手の車に近づくと、その運転手は窓を開放していたので、運転手の顔が見えた。なかなか美人である。若そうでスタイルもいい。水商売的な感じではあるが、男なら誰でも甘くしてしまいそうなタイプの女である。もし、素直に謝ってきたら、こちらはコキズ程度なのでそのまま許してあげようと思いながら、丁寧な口調で話しかけた。
私「あのーミラーが当たったようですが」
女「無言」
私「あのーミラーが割れてあそこに落ちていますよ」
女「無言」
私「私の車にもあたったんですけど」
やっと、女が開口一番口にしたことは、「あなたも動いていたでしょ!」とまったく悪びれることなく神経質に。
一瞬頭の中が真っ白になりかけたが、即座に復旧した私の頭脳は、相手が悪いときはとにかくしっかりと証拠を記録しておかないと大変な事になるという冷静な判断を下した。
私「じゃあ、通行の邪魔になるので車をあそこに止めてください。話をしましょう。」
車を路地のわき道にお互いに移動させて、再度話し合う。
私「私も動いていたと主張されますか、間違いありませんか?」
女「ええ、あなたも動いていました。」
私「では、警察を呼びましょう。」

話にならないと感じたため警察をすぐによんだ、正確には女が警察に電話してよんだ。自分の電話で電話するのも馬鹿らしいからだ。
相手の女との会話はこれだけ。
会話にほとんどなっていないため、これ以上お話しする気力もうせてしまった。

警察が来るまでの15分間、現場に散乱する(相手の)ミラー破片を携帯のデジカメでとりまくった。
警察官に破片の状況などを説明すれば簡単に私が動いていなかった事は理解してもらえるはずだとおもいながら・・・・            

警察官がつくまでの間、私は路面に散乱する相手車両のミラーガラス破片をいろいろな角度から撮影した。破片が分かりにくいために付近に落ちていた花びらをちぎってマーカーとして使い、破片と車両の位置関係、破片の集団のばらつき方など、物理的に相手方車両のみが動いていた事を示す根拠になると思われる物証を携帯電話のデジカメで撮影した。携帯のデジカメとはいえ100万画素を超える画質のため、かなりキレイに撮影できる。
 相手の女は携帯電話で職場への連絡、保険会社への連絡を行っていたが、私が撮影し始めると破片を動かしてはいやしないかといぶかしげにその様子を見張っていた。これは私にとって大いに有利な事であった。あとで見ていなかったから動かしていたかもしれないといわれたらせっかくの証拠の能力が半減してしまうからである。
 一通り撮影を終えても警察が来るまでにしばらく間があいた。そろそろ気も落ち着いた頃ではないかと思い、私は女に語りかけた。
私「お互いに修理代はたいしたことが無いと思いますけど、私は動いていないのに、動いているとあなたがいうために話が大きくなりますね。」
女「ええ」
なんとも会話にならない相手なのである。もう全く話にならない。会話がつながらないのである。
苦手なタイプだと思いつつ、自分の車の傷を再確認し、たいしことが無い事に安堵した。この調子だと、あの女とはきっと修理代の支払いについての交渉も難航するに違いないから。
 
警察が到着する前に相手側の保険屋さんがついた。保険屋を現場にまで呼びつけるとはたいした女である。保険屋さんに事情を説明し、私の住所・氏名・電話番号を知らせた。女の名前すら聞いていなかったので、女に尋ねた。
私「アナタの保険屋さんに私の住所・氏名・電話番号を教えましたので、あなたのも教えてください。」
女「伏見 順子です。電話番号は090-XXXXXXXXです。」(かなりいやいや)
私「住所は?」
女「教えたくありません。
私「はあ?では、携帯の電話番号ではなく固定電話番号を教えてください。」
女「嫌です。
私は完全にはらわたが煮えくりつつあった。その場で思い切り殴りたくなった。
しかし、それを押し殺し、その場ではそのままなにもいわず、引き下がった。
とにかく、話がこじれそうな相手だ。十分に警戒する必要がありそうだと肝に銘じた。

やっと、警察が着いた。

警察が来る前に実はもうひと悶着あった。
相手の車両の損害状況を記録するためにデジカメで撮影しようとしたところ女がこれは私の車なので勝手に撮影しないで下さい。といってきたのである。
私「状態を記録しておきたいだけですが・・」
女「嫌です」
終わり。すごい剣幕でカメラの前に立ちはだかるので、これ以上どうにもならない状況。
この女、絶対に後悔させてやる。と心に決めた。

警察が着いた。警察官はこの程度の事故でも愛想良く面倒くさがらずにサクサクと記録をつけていった。
しかし、ミラーは片などの位置関係についてはほとんどみていなかったように思われ、不安だった。
私「すみません。こんな事でお呼びしてしまって。その場で示談にしようと思ったのですが、あの女性が私は全く動いておらずすれ違いさせようとしていたのに、私も動いていたとあくまでも主張し話し合いにもならないものですから。破片と車の関係から、私は動いていないと証明できませんか。」
警察官「ああそうですか、記録は取りましたから事故証明が出ます。あとは、当事者同士で話し合ってください。警察は過失割合については判断できません。」
民事不介入というやつだろう。頼りにならない存在である。結局、現場の検証などしてくれず、お互いのアドレスを記録し場所と時間を記録し、事故証明一丁上がりという事などだろう。

私「あの女性が、住所を教えてくれないのですが、話してもらえませんか。」
警察「そうですか、あなたはなぜ住所を教えられないんですか」
女「何で教えないといけなんいですか
警察「当事者同士ですし、あちらさんは教えているのでしょう。教えあうのが普通ですよ」
女「私は一人暮らしなので教えたくありません。
警察「どうしましょうか?」(困惑して私を見る)
私「では、固定電話番号を教えてください。携帯電話の番号では解約されてしまったら、私はアナタに連絡をとる事が全く出来なくなってしまいます。」
女「一人暮らしなので教えたくありません。
警察「そこまでいうなら、もし連絡がつかなくなったら警察の方に連絡していただくというのではどうでしょうか?」
私「仕方ありませんね。」(いざ、もめて警察に聞いても、民事不介入と抜かしてばっくれるつもりじゃねえか?と思いながらも警察官には敬意を払い引き下がる。)

とことんふざけた女である。事故を起こしておきながら、百歩譲ってお互いに動いていたとしても、今後の連絡のために住所と電話番号を教えあうのは常識ではないだろうか。いままで二回、小さい事故でやり取りをした事があるがこんな事は全く初めてだった。

どうにもこうにもイライラする相手であるが、しかたがない。車両番号を控えておいた。これさえあれば住所など簡単に探せるのだから。教えなければわからないと思っているアホを説得する時間は無駄である。かなりイライラしてしまっていたので相手の車両をデジカメで取る権利があるのかを警察官に聞くのは忘れてしまった。

警察はさっさと帰ってしまった。保険屋さんがまだいたので、別れる前に話した。
私「あの女性の態度には非常に問題がある。こちらが動いていたという主張を保険屋さんも通すつもりなら、こちらはデジカメで記録をとってあるからとことんやるつもりですからね。」
保険屋「わかりました。また連絡させていただきます」
保険屋さんは男性で私と同じくらいの年齢の好感が持てる人間だった。ああ、あの馬鹿女の事で、この人とやりあうのは嫌だなと思いつつ、車に乗り込み現場を離れた。

事故のあったその日の内に、女の保険会社から連絡があった。現場に来ていた男性保険員からだ。
男性保険員は詳細についてはまずは決めずにとりあえず挨拶をということで電話してきた。なかなか誠意のある迅速な対応であり感心した。私が例の女性の言い分と私の言い分にかなり相違があることについて説明し、目撃者がいない事から、物的な材料はあるものの自分の主張だけをあくまでもとおすつもりは無く、ある程度の妥協はしますという事で話をした。

その日の夕方にまた男性保険員から電話があった。こういうときにこまめに連絡をくれるだけで安心するし信頼関係も出来る。私の男性保険員への評価は高まる一方だった。女性運転手のほうは男性保険員から再度説明を受けても頑として私が動いていたという主張を繰り返しているとの事だった。私が女性運転手から受けた非常に尊大失礼で聞く耳を待たない自己中心的な印象を男性保険員に伝えると、彼もやはり、あの女性のヒステリックな頑固さには取り付く島が無いといって嘆いていた。

私があの女を説得できれば話は簡単にかたがつく。しかし、かなり、理屈で話しても通じないだろうし、まず、こちらに話をする気力を失わせるほどの異常な雰囲気が漂う女性のためにこちらの精神力がもたないだろう。私が電話しても携帯電話代が無駄になりますます話がこじれるだけだという事は容易に予測される。そこで、そういう理由で申し訳ないが男性保険員にもう少し説得をしていただく事を手伝っていただけないかを話した。男性保険員はすぐに理解してくれて協力しますといってくれた。

ただ、男性保険員があの女に念仏のように理屈を繰り返しても話の内容が聞こえているのかも疑わしいほど会話にならない相手なので無駄に終わるだろう。自分の保険屋さんにもヒステリックな頑固者という印象を与えるほどだから。私はデジカメで撮影したいくつもの画像に注釈やミラーがどういう状況で割れて放物線を描くようにして女性車両の進行方向にどれだけ散乱したか等を書き加えて資料を作成した。ミラーの高さとミラーが飛んだ距離からおよその女性車両の時速まで算出した。

事故のその日の夜に、その資料が女性を説得する材料になるであろう事、これだけの証拠があれば男性保険員も私の主張にも一理あるという事をしっかり認識できる事を期待して、FAXで男性保険員宛てに保険会社に送った。女性にこの資料を見せてもかまいませんとも書いておいた。

事故翌日、朝に保険会社電話し、資料を送ったので参考にして欲しいと話した。

 

保険会社の人にはまず、私の希望とする解決結果として話しておく必要があるように感じた。
それは私が55を受け入れないのは自分の修理代を払いたくないとか、自分の修理代を少しでも多くせしめたいとか、それが目的ではないという事をはっきりしておきたかったからだ。
ただ、相手の車はミラーが割れたために、私が相手の車のミラー代の半分を支払う事になり、私の車の修理代の半分も支払わなくてはならず、その修理期間の間の代車も保険会社は出してくれないという状況をすんなりと受け入れるわけには行かないという事だ。私は事故を回避すべく停車し最善の努力をしたにもかかわらず無謀な運転をしたあの女によって損害を受けただけでなく、こちらも半分罪があるかのようなふざけた態度を取り続けられた。ひとことの謝罪も無くあの事故現場で受けたひどい対応には心底頭にきていたのだ。
希望としては、相手の修理代は絶対に払いたくない。この一点に絞った。謝罪を要求してもあの女にいまさら謝ってもらった所で、何の価値も無い。

男性保険員は私がFAXした資料を検討し30分後くらいに職場へ電話をしてきた。
男性保険員「状況は大変よくわかりました。証拠についても写真を見ましたが、納得がいくものでした。そちらさまが5:5を受け入れられないという事情については理解しました。そこでですが、どれくらいの過失割合であれば受け入れていただけるでしょうか?
私「見ていただきありがとうございます。何対何ということは難しいのですが、私の修理代は自分で何とかします。当て逃げと思えば気が済むレベルのかすり傷ですから。ただ、相手の車の修理代だけは払いたくありません。」
男性保険員「その線で、いけるとおもいます。そちら様の修理代の請求を御辞退されるという大変に譲歩をいただき申し訳ない気持ちです。もういちど伏見さんに話してみます。」
私「早く解決したいのですが、相手の修理代だけはこういったことですので絶対に払いたくないので、交渉の程、申し訳ないですが宜しくお願いします」

私としては、これできっと解決するだろうと思っていたのだが、翌日の男性保険員からの電話で、あの女性の異常さを改めて思い知らされることになるのだった。

 

保険屋さんからの電話は示談のこちらの希望を伝えたその日の夕方に来た。
すぐに連絡が来たということはきっといい方向で話がついたに違いないと直感して携帯電話を取った。

保険屋男性社員「今朝お話した内容で伏見さん(女性運転手)と先ほどやっとお話しすることが出来ました。彼女はどうしても、私のほうも動いていたという事を主張されております。金銭的な示談のメリットとデメリットについても十分説明したつもりですが、説得できませんでした。私としましては等級が下がり保険料がアップする事を説明し、そちら様より御提示いただいた条件で保険金を使わず示談するほうが金銭的に有利ですよと説明しましたが、ダメでした。彼女はそちら様へのお支払いは全額保険を使って行いたいという事で、事故受付を希望されました。そういうことですので、本日中に事故受付する事になりましたので、私の担当から、事故受付担当の*さんに移ります。この度はお力になれず、申し訳ありませんでした。」

私が信用していた現場に駆けつけていた保険屋男性社員は営業社員だったらしいことがこのときに始めて分かった。あの女性運転手は保険会社の事故受付に電話をしたのではなく、保険を勧誘した営業社員の携帯に直に電話したのだろう。営業社員としては色んな付き合いがあるはずだから、飛んできたという事だろう。実際に自動車保険を使うとなると、担当が代わるシステムということだ。

わたしも、こんな小さい事故で相手が自動車保険を実際に使うとは思っていなかった。相手の車は、かなり低年式のぼろぼろの軽自動車だったから、ミラーの修理代も5000円くらいで中古品をつけることになるだろうと保険屋男性社員も言っていて、私の車はミラーのカバー部分の傷だけで相手がきちんと謝って来たらその場で許そうと思ったほどの物だったから修理代の総額はたかが知れているはずである。あの低年式のぼろぼろの軽自動車に車両保険がかけられているとは思えないし、どう考えても保険を使うのは割に合わないはずなのであるが。

保険屋男性社員にはまあ仕方ないですね、相手が銭勘定できない人の場合、交渉も何も無いという事でしょうね。というような話をして、終えた。

自動車保険を使用するとなると、もし車両保険に入っていると相手の修理代も跳ね上がるかもしれない。新品に交換したり、ドアにももしかしたらガラス片があたったとか何とか言ってドアの塗装まで要求するつもりでいるのかもしれない。記載するのを忘れたが、保険屋男性社員との話の中で女性運転手はいったい何をしている人なのか聞いたことがあり、自動車修理工場関係で働いていると聞いていた。車両保険に入っていない場合でも、身内の自動車工場と結託して修理代をかさ上げし半分を私に払わせて、実際の修理は中古品で済ませて残りで車両保険の値上がり部分もカバーしてしまおうという計算なら、損はしないと踏んだのかもしれない。

しかし、たったあれだけの事で大変な事になってしまいそうな気がしてきたが、まあ、私も対物保険には入っているからむちゃくちゃな請求が来たら私も保険を仕方がないけど使うという手があるので、冷静さを失わずにいられた。私の場合等級も上り詰めているので、3段階下がっても保険料も変わらんし。

余裕があるときには人は冷静でいられるとおもった。こうなったら、とことんやってやろうじゃねえかと、闘志が燃え滾ってくるのであった。 

相手側の保険会社の担当者が営業社員から事故受付係へ代わる事の連絡を受けたその日のうちに事故受付担当の方から電話が来た。保険会社の対応というのは非常にきめ細やかでかつ対応が迅速・正確であるなとこの件で感心させられた。このようなくだらない小事案でも、何人もの人に迷惑をかけてしまっているのだと思うと非常に気が重くなった。110番を受けてくれた警察官、事故現場に来てくれた警察官2名、相手方保険営業マン、お互いの車を駐車し迷惑をかけた付近の工事現場の方々など、これ以上話がこじれるともっといろいろな人に迷惑をかけることになるのかもしれないと思った。万が一裁判沙汰にでもすると司直の方々、職場を休む事で職場の仲間など、おそらく、そのバックグラウンドでは私にはわからないその他のいろいろな人がこの件で仕事が増えたりするのかもしれない。そういう人たちからすれば、こんな小さいことで揉めている事、自体が私の社会性の未熟さ愚かさと思われても仕方が無い。お前の言っている事はわからんでもないけどそれで迷惑する関係のない人のことももっと考えろよなという声が聞こえてきそうで仕方が無かった。

事故受付担当「この度は、伏見様(事故の相手女性)のご意思により正式に事故受付処理をさせていただきました。今後の対応は事故受付担当の私がさせていただきます。先に送っていただきました資料は拝見させていただいております。しかしながら、当方としましてはお客様である伏見様のそちらさまも動いていたという主張を元に対応することになることを申し訳ありませんが御理解願いますよう宜しくお願いします。」

私「そちらの立場はよくわかります。先日まで**さん(保険営業の男性社員)にお願いしていましたが、私としては提示した資料の理由があるために55で相手方の修理代の半分を支払うという事には納得できず受け入れがたいところがあります。しかし、そちらの保険会社の方にもこんな小さい事故でいつまでも御迷惑をおかけするのも、馬鹿らしい事ですから、速やかに解決したいと思っています。」

事故受付担当「御理解いただけてありがとうございます。こちらとしましても、速やかに解決できるように努力させていただきたいと思います。明日に再度、お電話を差し上げたいのですが、都合のいい時間帯などはあるでしょうか?」

私 都合のいい時間帯を告げ、質問してみた「もし、お互いに譲り合わず平行線になった場合、どうなりますか?」

事故受付担当「そのまま、連絡を取り合うようにして解決に努める事になります。」

私 「お互いに何も払わずそのまま、ということですか?」

事故受付担当「そうですね。迷宮入りといいますか、そういうことになるケースもございます」

私 「しかし、そうなるとこんな事故でいつまでもあなたは引っかかったままで仕事が片付かなくて、時々、どうしましょうかなんていう連絡を私にとらないといけなくなるんでしょうかね。」

事故受付担当「そうですね。そのまま、連絡を取り合うようにして解決に努める事になります。」

実を言うと、わたしはこの事故受付担当者との会話は非常に楽しかった。非常に初々しい感じがして、言葉を気取らず、率直に質問に答えてくれている感じがしてとても好感を持った。おそらく、こういう小さい小さい事故であるから、まだ経験の浅い新人に任されるような案件なのだろう。あまりに好感を持ってしまったので、もう少し質問を重ねていった・・・・・・・・・

 

事故受付担当の方と初めての電話できくことではないとは思いつつ、更に、質問を続けてみた。

私「すみません、もう少しだけ聞きたいことがあるんですけど今いいですか?」

事故受付担当「はい、よろしいですよ。」

私「このまま、私が折れなければ、解決しそうに無いということは感じています。放置してもいいんですけど、わたしもそれはなんとなく気持ち悪いので、やっぱり、早期に解決はしてしまいたいのです。そうなると、お互いに折れないとなると、最悪は裁判とかしかなくなると思います。保険会社さんとしては私の送りました資料を検討していただき、もし裁判になった場合にこんな証拠では私のほうが負けるよというようなアドバイスをしていただく事は出来るでしょうか?この証拠では勝ち目が無い、つまり私が動いていなかったというような物理的な証明にはならないという根拠を示していただければ、私は全面的に55の条件をのみ解決したいと思います。勝ち目の薄い、一か八かの裁判となると経済的な傷が広がるだけなので。」

事故受付担当「保険会社としてはああいう資料というのは、拝見はしますが、あれで証拠になるかとか、物理的に正しいかどうかを検討はしておりません。ああいう内容の相手方の主張があるというのを確認するだけで、保険加入者さん、つまり私どものお客様と主張が食い違う場合にはどうしてもお客様の主張を尊重して交渉することになります。裁判についてですが、小額訴訟というのがありましてそれだとたしか1万円以内で御自分でもおやりになることは可能です。」

私「証拠になるかとか、物理的に正しいかどうかは、検討はしてもらえないんですね。わかりました。まあ、その小額訴訟というのをするかどうかは、相手の見積もりが出てから、検討させていただきますので、まずは相手方の修理の見積もりを早急にお願いしたいと思います。私の修理ですが、すぐに修理する必要がある状態ではないですし、先に営業マンの方にも申しましたが修理しないでおいてもいいかと思う程度ですので、こういう場合どうするか悩んでいます。どうしましょうか?私は修理せずで、請求しなければ、相手方の修理代の半分だけを払う事になるわけですよね。それではますます嫌なんですけど。でも、修理するとなると車が一日つかえない不便も出るし、自分の修理代の半分は払わないといけないし、困りますね。実際、修理するかどうかも分からないのに見積もりをとらせるのも悪いなーというのもあるのですが。」

事故受付担当「こちらの方は伏見さんに出来るだけ早く見積もりを出すようにさせていただきます。どちらへ修理の見積もりの予定でしょうか?見積もりをとることと修理を実際依頼するのとは別ですので余りお気にされないでもよろしいかと思うのですが。」

私「***ディーラーに出します。車を購入したところで親しいところですので、かえってこんな事でただ働きさせるのは悪いなーと思うのですが、しょうがないですね。わたしの方は早速、明日にしたいと思います。あなたの時給がいくらか知りませんが、すでにだいぶ保険会社はコストを払っている事になりますよね。お互いにこんなくだらない事で時間を使うのはもったいないので、さっさとかたづけてしまいましょう。よろしくおねがいします。」

事故受付担当「大変申し訳ありませんが宜しくお願いいたします。また、ご連絡させていただきます。」

ココまでが事故発生から3日目の段階である。

 

私は保険会社との約束どおり、翌日に車を購入したディーラーへ行き、すまないけれどもこういう事情で保険屋さんが見積もりを出してくれというのでお願いしますと、修理の見積もりを依頼した。

見積もりはすぐに行われ、計算書が上がってきた。金額は結構かかるという印象の数字だった。小さい傷ではあるけれども修理としてきっちり保険修理するとなるとそうなるという事であった。

ディーラーの方にそれをお手数ですが保険会社の**さんに送っていただけますかとお願いすると、感心した事に既にその保険会社担当者から連絡が来ており見積もり依頼の件については話を聞いておりますということだった。保険会社というのは仕事が遅くて保険金の支払いもとにかく時間がかかるというようなイメージを少し持っていたので、この度の事故では保険会社のイメージというものは非常に高くなった。ディーラーからはそういうことで、写真を添付してそのほうに送っておきますということで非常にスムースに依頼できた。

少し懸念されたのは、まだ、相手修理代の見積もりが決定する前に相手側の保険会社へ私の修理見積もりを出してしまった事だった。前述したが、相手側が私の修理見積もりを見てから、相手車両の修理代を操作し、意図的に私の負担額を増加させる可能性も心配された。しかし、もしこれが逆であったらどうであろうか。相手保険会社としても、私のほうを疑う事は同じことであるはずだ。相手の修理代を見てから、親しいディーラーと結託して保険料を高く見積もらせるように顧客という立場を利用するかもしれないと思うかもしれない。そういうことをかんがえると、見積もりを正直に相手より早く出したのは、少なくとも意図的な操作という疑いをかけられないという点では有利なのかもしれないと思った。

私としてはその見積もりを貰ったときにとてもその50%をこれだけの傷の修理に払う事は出来ないなと感じた。つまり、相手の修理代の50%の金額も大きくなると、私が自腹を切ることになる金額はどんどん大きくなりそうだった。事故の状況から、やはり5:5の条件を飲む事は出来ないという気持ちは大きくなっていった。私は、この事故で、私が納得のする解決、つまり私の車は修理しなくてもいいけれど、相手の修理代も払いたくない、一言で言えば一円たりとも金を支払いたくは無い、を実現するのは相当に不可能に思えてきた。どうせ無理なら、相手のごね得だけは感情的にどうしても納得がいかないので、小額訴訟というものにかけてみようかという気持ちになっていった。

小額訴訟をするにしても、まずは相手側の修理代がどれくらいになるのか、それを待つことになるのだが、私の懸念を大きくさせるように、早期解決の期待は裏切られる事になるのであった。

私が修理の見積もりしたその日に、保険会社のほうから連絡があった。まめなものである。早々に見積もりをしていただきありがとうございます。という内容で、相手側にも早く見積もりをとらせるようにしますので、見積もりが上がり次第また連絡をさせていただきますという事だった。保険会社は修理費用がいい金額だった事には全く触れなかった。

私は、最終的に保険会社とのやり取りだけではあの事故相手の女性の無謀な運転と虚言のおかげで、5:5の条件で修理するにしても自腹を万単位でしないといけなくなった。相手側の見積もり次第によっては相当に支払い総額が増えるはずだ。金の問題は、はっきりいって感情をこじらせる最も厄介な問題である。これが、もし相手が全くわからない無人駐車場などでの事故であれば、それほどくどくど考えずに、修理したりしなかったり自分の財布とだけ相談してきめればいいことだ。しかし、今回の私のケースというのは、まず相手がはっきりしている。相手は明らかに虚言を述べている。しかも、相手の修理代の半分まで私が払わないといけない。これは大いに人を苛立たせる。

そこで、今の時代は便利になったことに、すぐに弁護士やら行政書士やらの専門家に依頼せずともある程度の情報がインターネットを通じて入手できる時代である。わたしは、保険屋さんに教えてもらった小額訴訟というものについて、インターネットを通じて猛烈に勉強を始めた。

小額訴訟の大きな特徴は、訴訟経費が極めて小額ですむという事、1回限りの審議で判断が下されるという事だ。私の立場からすれば、証拠は自分としてはそろっているように思うし、明らかに自分は動いておらず相手車両が突っ込んできた状態で相手車両のミラーが吹っ飛んだことを写真で見せれば理解でき証明できると期待しているので、これが認められれば100での解決となると思いたい。

しかし、世の中そんなにうまくいくものではないことは百も承知である。JF・ケネディの暗殺だって物理的には解釈がほぼ不可能とされる弾道計算によって狙撃手は一人にされたように、いろいろな人間がいろいろな事を考える場合には私の思惑どおりに運ぶ保証はない。どれくらいの時間が審議にかけられるかと調べてみると1時間以内らしいのである。1時間あれば、十分と考えるか、どうかは状況による。相手側は保険会社が全面的に代理人となって事故のプロが出てくるに違いない。そういった連中が、私の証拠を、ミラーの中のスプリングの物理的な応答によってはどうにでも解釈できるなどと言い出したらどうなるであろうか。私は一応、ミラーの中のスプリングの物理的な応答のバリエーションを想定し、いかなる場合でも大まかな物理的な慣性の法則と自由落下による物体の飛散・落下の証明は、覆らないと計算してみたのであるが、それが実際問題どれだけの根拠を持っているかは分からない。訴訟を担当する人間の物理学のセンスにも大きく判断が揺らぐだろう。裁判官というのは文系大学出身であるから、物理的にどうのこうのという話よりも、保険会社の経験あるプロの見解の方を、素人の私の見解よりも重視することは容易に想定された。私は真実を知っているから、物理的証拠を計算しそれを裏打ちする事が可能だ。しかし、真実を知らない者、それを疑うものを完全に納得させるほどの証明というのは不可能だ。まず、これが第一関門となる。

この小額訴訟というものの落とし穴もいくつかあることに気が付いた。まず、審議はたった1回であるから、もし私に不利に審議が終わったとしてもそれで終わりである。(本当にあとに手がない終わりではないが・・・あとで最後の最後の手については解説)。もし不利に終わったとしても、55以上に私の過失が増えるという事は無いはずであるので、訴訟がうまくいかなかった場合の追加の出費は一日仕事を休まないといけない事と5千円程度の訴訟費用だけであるので気はだいぶ楽だ。

もし、私の意見が全面的に認められてしまった場合はどうだろうか。審議はたった1回であるから、やった勝訴確定!100で相手からは修理代全額取れるし、修理の間の代車代まで出させる事も可能、訴訟費用も相手に払わせる!休んだ日当分の保証までさせてやろう!となるはずだ。しかし、忘れてはならないのは相手の女性運転手の性格である。小額訴訟での判決を納得がいかない、相手は絶対に絶対に動いていたのだから、となることは容易に想像される。しかも、経済的な勘定が苦手な様である.絶対に従いませんとなった場合に最後の最後の手を出す可能性がある。それは、本裁判への移行である。きちんと弁護士さんが立つあれである。小額訴訟でどうしても納得がいかない場合には、本裁判を希望する事が出来るようなのである。そうなったら、アウトである。完全に経済的な合理性を欠いた世界に突入してしまう。時間も馬鹿みたいにかかる。もし、万が一そんな事になろうものなら、一転して即降伏である。私はそこまでやるほどの狂気は持ち合わせていない。あの女性運転手の性格とこれまでの経過から、前代未聞のミラー接触による本裁判が起きる可能性は60%程度と思われる。

一般的には小額訴訟の場合は和解という解決になるケースが90%以上らしい。まあ、1時間以内の1回きりの審議ではお互いの言い分を聞いて半分くらいのところを取ってお互いに痛みわけにしましょうやということにするのが限界という事であろう。私のケースの場合も、そうなりそうなケースである。この場合は5564にする事で和解しましょうやということになりそうだ。この場合は訴訟費用の要求も、休業補償も無理。たった1割、金額にして数千円だろうか、過失割合を動かすために、もしそうなったらやってられんナというのが本音だ。

相手の見積もりが出来るまでの間、いろいろ、考えていた。相手の見積もりを気長に待っていたのであるが、前回の保険屋とのやり取りまでに4日しかかっていないのに、さらに1週間しても音沙汰が無いので、やきもきさせられた。その1週間の間に私は小額訴訟で裁判官の前で説明するために必要な物理学が全く出来ない文系裁判官にでも納得といきそうなプレゼンテーション資料を暇を見つけて作成していった。やるからには100のウルトラCを出すしか満足できないからだ。 

 

私が修理の見積もりをとってから、保険会社とのやり取りは相手側車両の修理見積もり待ちという事になっていた。相手の車のミラーは完全に粉々になってしまっていたから、車を毎日使用する人であればすぐにでも修理に出しそうなものだ。しかし、2日、3日と待っても一向に保険会社からの連絡は来なかった。明日連絡が来なければ、週末となり、最後の保険会社とのやり取りから1週間を過ぎようとした頃に、私は相手側保険会社にどうなったかを問い合わせる電話をかけようかどうか迷っていた。

時間がかかっている理由は一体何なのか。私の見積もりを相手の女性運転手はおそらく保険会社から聞いていると思われる。その金額とつりあう見積もりを作るために悪知恵をめぐらせているのだろうか。実際にかかる修理代とさらに来年から上がるであろう保険料アップ分を加えた額の倍の金額の見積もりを作成ているのだろうか。そうすれば5:5での過失割合の場合、相手側は私への修理代は全部保険会社が支払い、私が相手側の見積もりの半額(実際には際にかかる修理代とさらに来年から上がるであろう保険料アップ分を加えた額)を受け取り、自腹を切ることは無くなる。

私は、もし相手がそういう戦略で出たときの場合に備えて何が出来るだろうか。相手が請求してきそうな金額を想定してみた。実際に相手のミラーを修理する場合、カラーで無いタイプの樹脂製ミラーだった事から、私のミラーのように塗装代というのがまずかからない。新品として2万円あればおつりが来るだろう。

問題なのは相手が示談に応じず保険を使ったために来年から跳ね上がる保険料である。保険料は3割り増しになる。3割といっても今払っている保険料金が3割り増しになるのではない。普通のドライバーであれば割引適応前の基準保険料の4〜6割引前後で保険料金を支払っている。割引適応前の基準保険料が10万円とすると、いろいろな割引で4割引の場合、6万円になっているのである。3割アップは6*0.3の1.8万円アップではない。4割引の人は1割引になるのである。6万円だった保険料が9万円になるのである。実際には等級を5%間隔にするなどして急激に保険料が変わらないようになっているが、等級が低い人の場合はもう保険に入ってくれるなとでもいうように大きく保険料が上がる。逆に私の場合のように等級が最高点に到達し始めると、等級は3つ下がっても割引率に変化なしとなる。

3割等級アップは来年もし無事故だった場合に(等級にもよるのであるが、それほど高くない等級の場合、)毎年1割ずつ下がってく分は無しになってしまって更に3割アップとなるから、無事故だったときの保険料に比べると実質4割アップである。3割アップしたぶんが元に戻るだけでも3年かかるのであるから、割引適応前の基準保険料の6割分を3年間に無事故の場合と比べると負担する事になる。実質4割アップと考えると4+3+2+110割!!これ以上は計算がややこしくなりすぎるので止めておくが、事故で保険を使うと、使わない場合と比べて、割引適応前の基準保険料の約1年分丸まるを負担する事になる可能性があるのである。保険会社は絶対に損しないように仕組みを作っているので保険を使うときは良く考えるべきだ

相手側の等級が低い場合には最大で10万円近い負担増となるかもしれない。そこまで計算できる人間であれば、先に提示した示談に飛びついてくるはずであるが、相手側女性一人の脳みそだけが敵とは限らない。他のブレーンがあれこれ細かい計算をして後から知恵をつける可能性もある。

とにかく、見積もりの連絡が遅いために、いろいろと懸念される事態を想定し、私は相手の保険会社に電話する前に自分の保険会社にも最悪の場合に自分の保険も使うかもしれないために相談しておく事にした。

 

金曜になり、私は自分の保険会社に電話しようと思っていた。保険を使う事になるかもしれないことをあらかじめ相談しておくためだった。しかし、もし、そのような漠然とした感じの電話を受けた私の保険会社の人はどう思うだろうかを考えてみた。「はあ?それで?実際相手の見積もりが出てから、もし、保険を使うのであればまた電話してください。相談といわれてもどうしようもないですね。」と心の中では考えるのではないだろうか。「この程度の小さい事故でそんなにくどくど相談といわれてもこちらも暇じゃないんだからいちいち付き合っていられません」と思われても全くしかたのないことである。世の中には本当に怪我をしてこまっているのになかなか保険金が支払われなかったり、もっともっとややこしい問題が山積していて、保険会社の事故処理担当者はいろいろの人間のエゴと、会社の利益とのハザマで神経をすり減らして仕事をしているに違いないからだ。私のケースは、例えるならば、救急外来で生きるか死ぬかの人を蘇生しているような病院に、擦り傷の治療を求めにいくようなものである。

そう考えると、自分の保険会社に電話する前に、見積もりはどうなったのか、また、私の見積もりが意外に高いのであるが55で解決するつもりなら、私が自腹を切る金額は数万円単位にまでなるので納得いかないことを伝えておこうと思い相手側保険会社に電話しておく事にした。

私がひそかに好意を抱いている相手側保険会社の担当者に電話をかけた。
私「大変お世話になっております。見積もりの方ですがもう出ましたでしょうか?」
相手側保険会社の担当者「見積もりについては今日現在まだ来ていません。大変申し訳ないです。至急こちらからも急ぐように連絡します。」
私「わかりました。それと、私の修理の件ですけど、前にも言っていましたが、修理しなくても我慢できる程度のキズなんです。もし修理するとなると結構お金が掛かります。半分はそちらの保険会社が払ってくれても、当たり前ですが私も同じだけ払わなくてはなりません。それだけでも数万円になります。ですが、もし、私は修理しないとなると、相手の修理代の半分だけを私が払って、相手は保険も結局使わず、保険料も上がらずで完全にごね得になり、私は納得がいかないんですけど。」
相手側保険会社の担当者「いえいえ、そういうことにはなりませんので御心配しないで下さい。もし、そちらさまが修理しなくても、お見積もりいただいた金額の半分は保険金をお支払いする事が出来ます。
私「え?そうなんですか!修理代金の見積もり金額の半分を、修理しなくても私に払う事が出来るんですか。」
相手側保険会社の担当者「はい。お見積もりが正確にされているかどうかの査定はしますけれど、それで問題が無ければ、実際修理したかどうかは問題ありません。」
私「それを聞いて、ほっとしました。では、私は自分の修理代見積もりの半分をいただいて、それから伏見さん(事故の相手)の修理代の半分をそれから払うことができますからね。」
相手側保険会社の担当者「そうです。伏見さんには今日、すぐに電話して見積もりを早くとるように連絡しますので、申し訳ありませんが、宜しくお願いします。」

私はこのように保険金が支払われる仕組みがあることを全く知らなかった。保険会社のルールというのは意外に人情的で理性的なものだと感心したが、反面、そういうところにつけ込む保険金詐欺というのもたくさんあるんだろうな、と、かえって保険会社のほうが心配になった。

ここでひと安心なわけであるが、私にはあの女性運転手がなぜ、見積もりをなかなかとらないのか、なぜ、保険金が跳ね上がるのに、私の示談条件を無視して、このような選択をしているのかを考えたときに、薄気味悪い不安が残っていた。それに、結局、55で処理されるという事はあの女性の言い分が認められたことにもなるため、気分が悪かった。

万が一、相手が無茶な請求をしてきた場合、その査定をするものは、私が自分の保険を使わない場合は、いないのである。わたしの見積もりは相手側保険会社が適正かを査定する。わたしは、あの女性運転手とのやり取りで感じた異常性から、相手が相手だけに慎重にならざるを得なかった。相手の修理代を査定する事を依頼する必要生じる、万が一に備え、やはり、自分の保険会社にも事情だけは相談しておいた方がいいように思われた。
                           

私は自分の保険会社へ始めて電話をかけた。事故受付担当者の方へ事情を説明したところ、相手側の見積もりが遅いのは確かに心配だという事で理解を示してくれた。そして、保険は基本的には使わないが、保険会社として私の代理人として相手側保険会社とやりとりをするにあたっては、仮ではあるけれども事故受付という形にし、相手の修理代が保険を使う程高くない場合には事故受付を取り下げる事は可能ということだったので、その方向でお願いした。もちろん、私の修理代見積もり金額や相手側保険会社はそれを修理しない場合でも私に支払う事を了解してもらっている事も伝えた。そして事故の状況を正確に知らせるために、FAXで資料を送りたいといったところ、もしパソコンで作成した資料であればメールのほうがキレイに送れるのでそうして欲しいという事だった。もちろんそれは嬉しい申し出であった。パワーポイントで作成していた、もし、裁判になった場合に備えて作成していたプレゼンテーション資料をメールで送った。

小一時間ほどで、保険会社担当者は電話で返事をくれた。
保険会社担当者「資料を見て、驚きました。この状況と証拠では、55というのは私も少しひどいと思いますので、相手側の修理代見積もりの催促と見積もり金額の査定を申し出るとともに、過失割合についても相談してみたいと思います。
と私にはとても心強い内容であった。

更に、3時間後、私の保険会社担当者から電話が来た。
保険会社担当者「相手側保険会社と話しました。修理見積もりは今日中に出してもらえるように、相手の方と交渉中です。それと、相手側の女性の名前ですが、姓は正しいですが、名前がお客様の資料と異なっているので、お知らせしておきます。正しくは祥子さんです。あと、お客様としてはどれくらいの過失割合でしたら、納得いただけるでしょうか?」
私「お手数おかけしてすみません。名前については相手の方の目の前でメモを取りながら記載していたのですが、間違えていてすみませんでした。過失割合については100などと言っているわけではありません。相手側に過失割合が大きくなる形、相手側の主張だけが取り入れられた形というのは気分が悪いなと思っているだけですので。過失割合については私ではこういう場合どうなるか、ということについてはわかりませんので、お任せしたいと思います。
保険会社担当者「承知いたしました。では、相手の見積もりが出たら、もし間に合えば今日中に電話させていただきますが、かまわないでしょうか?」
私「もちろんです。宜しくお願いします」

驚いた事に、あの相手側車両の女性運転手はとっさに名前を偽っていたことが始めてわかった。あのときたしかに、間違いようの無い単純な名前を、メモを取りながら相手側もそれを目で確認しながら、名前と携帯電話の番号だけをやっと聞きだし記載していた。保険会社から教えてもらった実名と私が聞いたあの名前とは聞き間違いとは絶対に思えない。どれだけの修羅場をくぐってきた女性なのかは知りえないが、あの事故のときの初めの対応、落ち着きぶり、偽名を正々堂々と語り、住所も固定電話番号も教えず足を突かなくさせる手馴れた応対、それらを総合的に判断すると、これまでにも犯罪にかかわるような修羅場をくぐってきた種類の人間という印象が更に強くなった。

とにかく、ああいう人間に、不意に関わってしまったのは、これはもうどうしようもない事で、誰にでもいつ突然降りかかるかもしれない災難だろうと思われた。

私は今日中に見積もりをとってくれて、このやきもきした気分の悪いこの数日の悩み事が早く解決する事を祈り、電話を待つのだった。              
                  

事故の発生から、2週間目の週末、私の保険会社の担当者から電話が入った。

私の保険会社の担当者「37でお客様の過失が少なくなる条件で、相手の保険会社と交渉がまとまりそうです。相手の修理費用の見積もりですが、総額で5000円です。この過失割合で示談決着という事でよろしいでしょうか?」

私はこの内容を聞いていた時、全身の緊張が抜けていくのを感じていた。
あの忌まわしい事故から、2週間、些細な事でも考え込んでしまう私の頭脳はほぼ24時間、毎日、どうしたらいいかを脳回路の片隅で処理し続けていた。それがやっと、終わったのである。
相手の修理代が最も心配されるところだったが、極めて低額の修理代である事に驚いた。

私「そうですか、55は譲れないとしていた相手側の保険会社とあの女性運転手でしたので、過失割合がこれほどまでにこちらに有利になったことには驚いています。***さんの交渉能力の賜物だと思います。心から感謝いたします。それで決着をよろしくお願いいたします」

私の保険会社の担当者「いいえ、あれだけの資料があれば、当然の結果だと思います。お力になれて光栄です。お客様の修理代についてはあの見積もり通りで70%をお客様の個人口座に入金するという事で、話されていましたとうりにできるということでした。」

その2日後、相手の保険会社から、示談報告書が届いた。
しかし、それから1週間経過するも口座に入金はなかった。

もしかして、私の修理代について査定で問題が生じ処理が遅延しているのであろうか?やっと、解決したかと思ったのに、入金がなされない事で再度、不安が生まれてきた。示談報告書には過失割合や金額等については記載されず、示談が締結した事だけを通知する内容だった。その手紙には、別途、書類が届くと記載されていたが、それはこの1週間届いていなかった。

この期に及んで、あんまり私のほうから振込みはどうなっているんだ等と催促するのは、気が引けた。
結果として、私は修理すると持ち出しが数万円になることから修理には出さず、保険金だけを受け取り、相手の修理代の3割を振り込むとしてもCDアルバムが10枚は買える位の金額が手元に残ってしまう計算になる。ややもするとごね得、保険金詐欺とも感じられかねない結果は、私が望んだものではなかったが、相手の保険会社からするとそういうことになるのかもしれない。
少し後ろめたい、気持ちがあったので、あと1週間くらいは気長に待ってみようということにした。

 


私は示談報告書に記載されていた担当者のメールアドレスにメールすることにした。

*/**付けで示談内容の御案内という文書が送られてきました。内容に間違いはありませんでした。私の口座への振込みをしていただけると記載がありましたが*/**現在、いまだ入金がありません。この文書には保険金支払いの場合には別便にて案内する旨記載がありましたが、これも来ておりません。もし、処理が滞っているようでしたら御善処お願いいたします。それと、伏見さん(相手側の女性運転手)への私の支払いですが、支払い金額と口座番号を教えてくださるようお願いします。当方、日中は携帯電話よりもメールのほうが連絡がとりやすいので、今後はもしよろしければ、このメールアドレスで返信いただければと思います。」

このようなメールを送信したその日のうちに、遅延している事をわびる返信が来た。

「この度は、大変ご迷惑お掛けして申し訳ございませんでした。本日、示談内容の通り、お支払いの手続きをさせていただきました。支払い明細書についても発送いたします。そちら様の伏見さんへの支払い金額は1500えんとなっていますのでそれを当保険会社からお支払いする金額から相殺して、お支払いさせていただきたいと思います。伏見さんへはこちらから入金させていただきます。特に問題がなければ、着金予定日は***となっております。早期事故解決の為、ご協力頂き誠にありがとうございました。」

遅れている理由は記載されていなかった。あの女性運転手は、おそらく、偽名を使った後ろめたさから、保険会社から私に口座番号と当然のことながら口座名義名=本名を知らされるのを防ぐために、手を回したのであろう。振り込み手数料が浮くし、手間も省けるので、私としては、相手の保険会社が差し引いて私に入金してくれる事は一向に構わない。しかし、最後の最後まであの女性の自己中心的で自分のプライバシーだけは頑として漏れないようにしようとする執着心には驚きあきれた。

また後半の特に問題が無ければ・・という記載が気にはなっていたが、余りごちゃごちゃいうのも嫌なので、着金予定日まで黙って待つことにした。

メールしてすぐに支払い明細書が届き、金額は私の見積もり金額は満額、認められていた。
予定日の一日前には、きちんと入金が行われた。

これで全てが終わったのである。

そして、解決する前にミラーのキズを自分で直してしまうと、査定で問題が生じてもう一度見せて欲しいという事になった場合、困る事になるので、みっともないままに、そのままにして置いた。やっと、私は愛車のミラーについたすり傷を、コンパウンドできれいに磨いて目立たなくする作業に着手する事ができた。キズは5メートル離れれば、分からなくなる程度までキレイにする事ができた。

それから、1ヵ月後、通勤路であるあの狭い道を私は走っていた時、あの小さい見覚えのある軽自動車が見えた。運転しているのは若い女性だ。あの時と同じ白いブラウスを着ているので彼女だとすぐに気が付いた。その軽自動車は、慎重にスピードを制限し運転していた。この前の事故のときとは全くの別人が運転しているように見えるほど、運転は慎重で、スピードは控えめ、私の前の車両の列とすれ違うところでも壁にぴたっと車を寄せて行儀よくすれ違いをしていた。私とのすれ違いの時には、相手は気付いたかどうかは分からなかったが、ぎりぎりまで更に壁に譲ってくれたように私は感じた。お互いに挨拶する事も無く、お互いの車両は徐行しながらすれ違った。

それから、彼女と私は月に1回はすれ違っているが、彼女の運転は相変わらず慎重で、問題のないマナーだった。私は、あのすれ違い事故でもめた事で、彼女がもしかしたら起こしてしまうかもしれない大きな事故を防いだのかもしれないと思っている。

自動車を多くの人が運転するようになり、狭い路地にもたくさんの車が毎日、ぎりぎりのすれ違いをして行き交っている。車もどんどん大型化し、パワーも上がっているなかで、道路の幅は変わらない。慎重に運転しなければミラー同士の接触事故は簡単に発生してしまう。ミラーが触れ合うという事はあと10センチ近ければ側面同士がかすりあう事になる。スピードが出ている車同士が十数センチ間隔ですれちがうというのは事故と隣り合わせ、事故がおきないのが不思議という状況だという事を私は再認識するエピソードだった。

最近、またヒヤッとした事があった。すれ違う際に大型ミニバンの大きなミラーが私のミラーの上を通過していったときに、側面ガラスにぶつかる!と緊張した。当然、私は微速徐行中で急ブレーキして停車したが、相手の大型ミニバンのおばさんは徐行速度を変えることなく、悠然とすれ違っていった。ミラーの高さが異なっていたから当たらなかったものの、極めて近かった。

今日も明日も、毎日、ドアミラー同士の接触事故くらいは発生しているだろう。慎重に運転し、つまらない問題に巻き込まれる事が無いように注意したいものである。

 

あとがき

それでも、私が遭遇したような異常者と遭遇してしまった場合には、諦めるか、とことんやるかになりますな。私は若い女と事故った時には何も口聞きません。逃がさんようにナンバー控えるだけで、後は無視!コミュニケーションするとむかついて叩き殺したくなるかもしれませから。いやー聞く所によると、最近の若い人は事故を起こしてもお互いに車の中に閉じこもって、それぞれ携帯で警察を呼ぶだけで、示談や話し合いなんかしないらしいですが、そんな世の中なのでしょうね。私のケースの場合でも、相手がすぐにすみませんと言ってくれたら、狭いからねー仕方ないよねー注意してよー、これくらいのキズならいいよーとなったでしょうけどね。相手が鼻から戦闘モードなら、冷静に検証して、とことんやらせてもらいますよ。

 

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